子供たちが母親と一緒に仙台電車でに遊びに行くというので、駅まで送っていった。
家に戻りガレージルームのFMラジオを付けると、スピーカーから心地よいジャズの音が聞こえてきた。

 ソファに座りK−3を見ていたら何気なく「走りたがっている」感じを受けたのだが、あいにく空は厚い鉛色
の雲に覆われていて、いつ雨粒が降ってきてもおかしくない状況だったので、

 「この天気じゃなぁ〜、、」と軽くため息を付きつつ部屋の掃除を始めた。

 部屋にはまだ前回の摺上ダム遠征の時のキャンプ用品の一部が所在無げに転がっていた。

天井の収納に押し込もうか、棚かフックでも増設し収納しようか決めかねたまま放置されていたためであった。

とりあえず天井の収納に追いやるかと思いつつ、小さなバックに手をかけたときその近くにあったコールマンの
アンレディッドシングルバーナー533に目が行った。

これはコンパクトなストーブなのだが、とてもパワフルで使い勝手の良いストーブだった。

ガソリンストーブなので、車と同じ燃料が使える点がとっさにどこかへ出かけたくなったときに何も考える必要も
準備も要らないので便利なのだ。

 そういえば摺上ダムのキャンプ場でこのストーブで炊いた飯は旨かったなぁ・・・と思った時に、これでコーヒー
を飲みたくなった。

 そうなれば天気など二の次なのだ。

 まずは台所の隅に転がっているパーコーレータを洗い、ペットボトルに水を入れ、豆と普段使いのカップを
巾着袋に押し込んだら、ストーブを積んで準備完了である。



ガレージの扉を開けてK−3を引き出し、サングラスかけて帽子をかぶって身支度は終了。



K−3に乗り込み、エンジンを始動させた。

少し前に給油しにスタンドに行ってきたばかりのエンジンは、軽やかに始動しアイドリング状態になる。

さあ、準備はそろったけど、どこまで行こうか。


 使える時間はそんなに無いけれども、25キロ離れた浪江町の請け戸漁港へ行ってみようかと思った。

ギヤをバックに入れて少しアクセルを踏んだら必要以上に早い速度でK−3は後ろへ進み、軽くハンドルを
回して切り返し、再びギヤをドライブに押し込んで家を出たのであった。

そのころには厚い雲の隙間から少しだけ日差しが顔を出してきた。

しばらくTシャツで走っていたがもう少しすると町中を抜けて、国道へでる。
国道では大体60キロ+αの巡航になるので、ボア付きの冬用のGジャンを羽織ることにした。

K−3のどライブでは風の影響が少なくない。



サングラス無しで高速ドライブは眼を痛めてしまうし、体が風に当たりっぱなしでは真夏ならともかく今の時
期は無駄に疲れるだけだ。

 去年の早朝慣らし運転の頃よく道路の脇の草むらの上を飛んでいたカノコガを見つけた。

思えばK−3を組み立てていたのは、去年の今頃だった。

毎朝4時頃に起きてK−3を造る日々。

 それはまるで学生時代の文化祭の準備作業のような楽しさだった。

 この時間が永遠と続いたらいいだろうなぁという思いと早くK−3に乗って街を走りたいという思いの葛藤の
中での作業であった。

 文化祭ならば祭りの終焉を迎えるモノ悲しさがあるが、K−3の場合は今度は乗る楽しみ、いじる楽しみに
変わっていつまでも飽きることなくワクワクする日々を満喫することができる。

 光岡さん、本当に良いモノを貴方たちは造ってくれました。感謝です。

 それにしてもK−3での国道ドライブで、南下するのは去年の11月ぶりのことだ。




 まだあの頃は遠出も怖くて近場をウロウロしていただけだった。

 さらに冬でフルオープンなK−3に乗るというのは、走る行為が修行そのもので、お世辞にも快適なドライブ
とは言えない。

 そう考えるとこの時期、確かに梅雨入りはしたものの、露骨に雨が降っていないならばK−3に乗ってみる
べきであると思う。

 かつて大陸は1つであった時代に地上の生物は特にその大陸を徒歩で移動すれば良かった。
やがて大陸が分断し人類が生まれ、未知なる土地へ進もうと思った時に人々は舟を作って大海原に出ていった。

 ノーマルマフラーのK−3はまるで、舟を持たない人類のようだ。
行動範囲がどうしても狭くなってしまうので、仲間に会うことも新しい大陸を見つける事も出来ない。

 K−3にとっての舟とは「大ちゃんバー」になる。
このチャンバーを手にした瞬間に、大海原に出るだけの舟を手に入れたのと同じになる。
上手く舟を操るためには2、3度沈没したり、危ない目にあうかもしれない。

 しかし、上手く舟を使えれば新天地へ行くことが出来るのだ。

 K−3ユーザーよ、ノーマルマフラーを棄てよ。そうして「大ちゃんバー」を手にして街を出よう。

 そこからが本当のK−3との生活が始まる。

 安全とは呪縛である。本当の自由は少しのリスクをモノにしてから得ることが出来るのだ。



 地上高の低いK−3でのドライブはスピード感たっぷりのものになる。
 目の前のアスファルトの粒子すら判別出来るほどの低い目線も少しフロントフェンダーに向ければ、粒子は線となり川となって流れていく。

 しかしそれでいてMC−1の様に路面のわずかな起伏にハンドルをとられてしまい、非常に神経質なドライブになることも無い。
純粋に走らせることだけに集中出来る環境のなかで、ドライブを楽しむことが出来る。

 確かに雨が降り出しそうな空だけど、ここまで走って高揚している気持ちならばたとえずぶぬれになって構わない気になってくる。
前に見たスーパーセブンの写真集では、初老の男性がハンチング帽を目深にかぶり、革コートに身を包んでレーシングシールドだけのセブンで雨の中を疾走する1枚があって、非常に絵になっていて格好良かった。

 全く興味の無い人からみれば、非常に滑稽な絵になっているかも知れないが、元来オープンカー乗りというのは偏屈で人のしなさそうなことをして喜ぶ変な人種が多いのである。

 道はすでに国道から県道へと変わっていき、交通量もだいぶ減って来ている。
ここからは余裕を持ったのんびりドライブ。

 天気が良ければ最高だろうけど、こんな天気のK−3ドライブも悪くはない。
前日の土砂降りの中のドライブを経験してしまえば度胸もつくというものだ。



 程なく、請戸漁港に入る。

 請戸漁港は福島県浜通り地方のほぼ中央部にあり、請戸川河口に造られた河口港で、漁業活動の進展に伴い施設を外洋側に拡張するなど
整備を進めてきたところ、他県の利用漁船が急激に増加したことにより昭和63年に第3種漁港に指定され、浜通り中央部における水産業の拠点
として発展しているそうだ。(福島県相馬港湾建設事務所のHPより

 しかし、土曜日の昼過ぎということもあって、かなりひなびた漁港という雰囲気に包まれていた。



 場所を移動し船の近くに行く。
朝方の漁は終わっているので、船内には裏返しに干されたゴム手袋などがあった。
海は丁度干潮でかなり水位が下がっている。
 小魚でも見えるかと思い、海面をみたがゴミが漂っているだけであった。
しかし、本当にゴミだらけの漁港だ。
 同じ漁港でも鹿島漁港の方は小さい漁港だが、これほどゴミが浮いていない。
多くは釣り人が棄てたゴミなのだろうか。あまりのモラルの無さに陰惨な気分になる。

 しかし、ここへはコーヒーを飲みに来たのだった。まずは当初の目的通りコーヒーを飲む準備を始める。



今回の道具はこちら。
・シングルバーナー
・ペットボトルの水
・パーコレータ
・カップ
・特売のコーヒー豆(粗挽き)

 パーコレータでコーヒーを飲む場合、ペーパーフィルターのような細かなフィルターではなく、無骨なアルミの穴あきフィルターであるので
粗挽き以下の粉で煎れてしまうと細かな豆の粉と共にコーヒーを飲むハメになる。
 これでカテキンでも摂取できるならば喜んで飲むのだが、そんな効果も期待できないので粗挽きのコーヒーをお勧めする。
また抽出の効率がさほど良くないので、粉は大目に入れたほうが良い。


 パーコレータに入れた水が沸騰するまで、船を見て回る。



漁港ではこんな感じで一列に船が並んでいた。
長く伸びた桟橋の奥は釣りのポイントになっており、良く釣り人が車にのって奥まで入っていく。



この2隻の船は一体何を獲る船なのだろうか・・・。
まったく見当がつかない。

しばらくして辺りにコーヒーの良い香りがしてきた。


地べたにペタりと座り込んでコーヒーを飲む。

そしてこのエッセイをW−ZERO3[es]で書いていた。
ふと、プラグの焼け具合が気になって、確認する。



 いい感じのキツネ色であった。
おそらくシリンダヘッドの裏側にもさほどカーボンがついていない状態だと思う。
ショートドライブとはいえ、こまめなプラグチェックの習慣を付けておいた方が良い。

 一安心したので、またコーヒーを飲んだ。
そしてエッセイを書く。
 入力に飽きたら周辺を軽く散歩する。

 そしてまたコーヒーを飲む。

 潮の香りに包まれながら飲むコーヒーはほんの少し海の味がした。